鑑草 中江藤樹

第六巻
淑睦の報い
第一話 王覧の妻

(現代語訳:青山明史)


 王覧(おうらん)の妻の兄嫁への淑睦(しゅくぼく)の心行の深さはたぐいまれなほどでした。
 兄の王祥(おうしょう)は継子で、弟の王覧は実子だったので、姑の朱氏は王祥の妻にはつれなく接して、王覧の妻を可愛がり大切にしていました。姑が兄嫁にきつく当たる時には、王覧の妻は嘆き悲しんで深く詫びました。姑が兄嫁にふさわしくない仕事に命じた時には、王覧の妻も一緒に手伝いました。朱氏が王祥の妻につれなく当たろうとしても、王覧の妻がともに悲しみ、手助けするので、次第にその心もやわらいできて、ついには二人の嫁のどちらにも優しくなりました。それからは家族みな仲良くなり、王祥、王覧ともに高官に出世して、子孫の代までその一族は富み栄えたということです。


評釈
 朱氏の虐悪は普通ではないほどでしたが、王覧の妻の淑睦の徳でやわらぎました。まして、それほどでもない人の場合ならどうでしょうか。王覧夫婦の兄夫婦への情愛によって、朱氏の明徳が明らかになり、家族が仲良くなり、代々の富貴の元になったのですから、至誠の淑睦の功徳が計り知れないほど大きいということをよく理解しなくてはいけません。

 




公開日 2011.5.11

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