鑑草 中江藤樹

第四巻
教子の報い
第一話 胎教で聖王を産む 

(現代語訳:青山明史)


 の人、季歴の妻の太任(たいじん)は、素直で誠実で慈悲深い人でした。子を身ごもっている時には、いっそう生活を慎み、胎教をよく行いました。そうして生まれたのが昌(しょう)で、後の文王です。昌は聖徳が明らかであらせられ、正しい道を世に広め、天下の人々をお救いになったので、周王朝が八百年間にわたって繁栄するもとになったのです。
 周の息子の武王は周王朝を立てると、亡き父に文王という称号を贈りました。そして祖父の季歴には王季という称号が贈られ、祖母の太任とともに王族と同等に祀られました。

(評釈 中江藤樹)
 胎教とは、子がまだ胎内にいる時の教育です。この時の教育は母親の心の状態と行いの中にあるのです。なぜなら、気が集まり子の形が固まっていく始めの時なので、外からの影響を受けやすいからです。
 胎教をする時の心の持ち方は、慈悲と正直を基本として、かりそめにも悪い考えをしてはいけません。食物もよく慎み、姿勢や所作も正しくして、目には下品な色を見ないように気をつけ、耳には悪い声を聞かないようにしてください。そして、昔の賢者や君子の行い、人の手本となるような故事を書いた本を読んでください。これが胎教の大要です。
 生まれてくる子の姿形がよく、知能や性格や才能がすぐれている事を願うのは母なら皆同じですが、胎教によって子の外見も知能などもよくなるという理を知らないので胎教をしない人がいます。胎教は子を教育する根本となるものですから、よく気をつけてしっかりと行ってください。


[ メモ ]

 【文王】
 商王朝に仕える諸侯で、周の地を治めていました。周王朝の創始者は文王の息子の武王で、死後に文王と呼ばれるようになりました。善い政治を行なったので、儒教では理想の君主の一人とされています。

 【悪い声を聞かないように】
 原文は「邪なる声をきかず」ですが、声は人の話す声なのか、音楽のことなのか判別できません。胎教的には悪い言葉、耳障りな音楽の両方を避けるべきでしょう。

 


公開日 2011.3.1

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