鑑草 中江藤樹

第三巻
不嫉と妬毒の報い
第二話 妾の子を殺した妻 

(現代語訳:青山明史)


 岳州の趙指揮(ちょうしき)には兄弟がいなくて、子の無いまま老いてきたので、妾に子を産ませて子孫相続をしようと考えました。しかし本妻の徐氏はもともと気が強く嫉妬深い女だったので、いろいろな手段を使って夫が妾に会うのを邪魔しました。さらに妾に嫌がらせまでするのでした。妾が妊娠するたびに、ひそかに堕胎の薬を飲ませたので子が生まれることはありませんでした。
 その後、徐氏のお腹の中に子のような大きな塊が出来て、耐えられないくらいに痛みだしました。徐氏はうなされていろいろとうわごとを言っているうちに、ある時は妾の口調で命乞いをしたり、またある時は幼い子の口調で棺をくださいなどと言ったりしました。そうして長いこと苦しんでいましたが、医者も手の施しようが無く、祈祷師がお祓いもしてみたものの全く効き目が無く、ついに死んでしまいました。
 夫の趙氏もまもなく死んだので、その家は後継ぎがなく絶え果ててしまったのです。

(評釈 中江藤樹)
 七去の中に「子の無いのを去る」というのがあるので、徐氏はすでに離縁されても仕方ないのです。その上に妬毒の邪心が激しく、妾の胎内の子を殺してしまったので、お腹の中に子のような塊が出来て、その罪の報いをあらわし、徐氏を苦しめて殺しました。人を苦しめ、自分自身の死を招いただけでなく、夫の家を断絶させてしまった徐氏の罪は非常に深いので、現世での報いだけではすまず、地獄での責めもまた厳しいでしょう。
 徐氏は自分が子を産めなくても、妾を大切にし、その子をわが子のように育てたならば、趙氏の一族は続いて自身も祖先として祀られたでしょう。それなのに嫉妬の邪心に血迷って恐ろしい報いを受けたのです。夫の趙氏もすぐに死んでしまったのは、このような冷酷な妻に好き勝手をさせて、子孫を滅ぼすという不孝の罪が重かったからなのでしょう。
 



公開日 2010.12.25

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